ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
無償提供された部屋の、二段ベッドの下段に潜り込む。

このまま寝ても大丈夫だろうかと憂慮した。

もし目が覚めて病室のベッドだったらと想定し、身が細る。

枕に頭を埋めると、上段のベッドの底板が目に入った。

ちっぽけなベニヤ板だったが、あの病室の天井よりもずっと温かく感じられた。

からきしとんちんかんなことばかりで付いて行けない一日だった。まさか牢屋にぶち込まれるとは。

思い返し、低い笑いが込み上げる。

その時、何かが脳裏を掠めていった。

牢屋に入れられた時、格子の向こうに貼られていた指名手配犯のポスター、あれは今思えばナオヤだったのでは? 

あの顔はもしかして、いや、絶対そうだ。

あたしとしたことが、凶悪犯を野放しにしてしまったのだろうか。

あの眼差し、あの黒い目。

それ程悪い人には見えなかったが、優しい顔の裏で酷いことをする奴もいる。

そういう奴はきっとあたしの予想よりも、わんさといるだろう。

他人を安易に信用しては駄目だ。

あたしは自分を言いくるめた。

< 55 / 168 >

この作品をシェア

pagetop