ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「じゃあ、早速始めようか」
関節が曲がって固まらないようにマッサージをしてもらいながら、当たり障りのない話をした。
「あの芸人絶対答え知ってるよね。なのにわざとウケ狙いで可笑しな回答しちゃってさ。そう思わない?」
日中はずっと点けっ放しのテレビで、クイズ番組をやっていたことを言われて知った。
〈はい〉とあたし。
あたしはそう言いながら、川島の俯いた顔を眺めていた。
少しくせ毛の茶色い前髪が目に掛かっている。
彼の柴犬みたいな目がこちらを見た。
視線が合ってしまったので、ふいっと逸らしてテレビの画面に目を移した。
意にも介さぬように、川島は慣れた手つきで膝の曲げ伸ばしをしていた。
「ああ、そうそう。あのタレントさん、一番前の席のアイドルタレント? 昔、甲州街道沿いのラーメン屋さんで見かけたよ。一人でニンニクラーメン食べてたな」
不覚にもちょっと笑った。彼と話している時だけは、いつも少しだけ和んだ。