ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ナオヤのぜんまいを巻く以外に特に仕事もなかったので、ルークのアシスタントをした。
絵を描く才能はないが、不器用でもない。
ルークが指定した場所を黒く塗り潰したり、消しゴムを掛けたり、原稿を封筒に詰めたりする。
彼の漫画はたくさんのことを教えてくれた。
ここは人同士の相互関係で相成る、一人きりでは生きていけない世界だった。
背中のぜんまいの羽(?)部分には自分では手が届かないので、誰かにぜんまいを巻いてもらわないと生きていけないのだ。
心臓みたいなものなのだろう。
ぜんまいを巻くことで全身に血が巡り、それを抜かれると穴から血を噴出し息絶える。
だから赤の他人には絶対ぜんまいを触らせない。
命にも匹敵する大切な器官なので、本当に信頼の置ける人にしか巻かせないようだ。
例えば配偶者や恋人や親子など。巻かせないというより、巻けないみたいだった。
双方が互いに心を通わせないとぜんまいは動かない。回らない。
ここがポイントのようだ。