ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ヒメの欠けた場所に摩り替わるように、あたしはこの家に馴染んでいった。

皆もすんなりあたしを迎え入れてくれた。

水を消費し過ぎだと小言を言われたり、ベタ塗りが異常に上手いと褒められたり、ゴローとシノブが繰り広げるラブコメディーを笑ったり、仏頂面の王子をそっとしておいたり。

あたしの心は平穏そのものだった。

日増しにここの皆が好きになっていった。

毎朝眠りに就くのが怖かった。

毎晩目覚めて目を開けるのも同じように恐ろしかった。

あっちの世界に戻っていたらどうしようと怯えた。

でも今のところこの世界にいる。

いつまでもこのままここで暮らせたらと切に願わずにはいられない。

この幸福な世界で、ずっと皆と一緒にいたい。

あたしはベッドでいつもそう祈った。

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