ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ぜんまいがないこと、記憶がないこと
膝を抱えて岩の上に体育座りをしていたら、背後から声がした。
「黒谷は早起きだな」
ナオヤだった。片手をポケットに入れ、ただの通りすがりです、という面構えで佇んでいる。
「そうですか?」
以前は毎日、毎時間、毎分、毎秒、全てが全てに於いて長かった。
今は正反対だ。
寝るのが勿体なかった。
だから太陽が完全に昇ってから寝床に入り、傾く頃には起きる。
昼夜逆転生活にもきちんと対応していた。
ナオヤは欠伸を口の中で相殺しながら、隣に腰を下ろす。
そうやって一緒に黙ったまま、地平線に沈む斜陽を眺めた。