ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
辺りが暗くなって、天空では気の早い星が既にちらちらと瞬き始めている。

互いの横顔がぼやけて闇に溶け出した頃、ナオヤがぽつりと言った。

「あんたはいつも幸せそうだな」

自分は不幸なのにと言っているような響きだ。

「はい、幸せですから」

そう答えた。嘘はない。

「そうか」とナオヤが足を伸ばし、手を後ろに突く。

「思い出せそうですか?」

何とはなしに、訊いてみた。ナオヤはふっと低く笑っただけだった。

今の笑みに含まれた意味が少し酌み取れた。

色々彼にも上手くいかないことがあるだろう。

「あんたは昔を思い出したりするのか?」

しばし考えた後、あたしは「いいえ」と答えていた。少し嘘を吐いた。

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