ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
夜中リビングの隅にある作業場で、原稿の背景の影部分にスクリーントーンを貼っていた。
この黙々とした過程が、あたしは案外嫌いではなかった。砂消しゴムを使って柔らかく仕上げるという技法まで習得していた。自分でも見過ごしていた長所を発掘した。
「精が出ること」とサナエがカップにお茶を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
サナエは「ええよ」とひらひらと手を振った。
ルークも画材を買いに外出していたので、あたしとサナエが二人だけで留守番をしていた。
カッターを置き、カップを口に運ぶ。サナエの淹れる紅茶はいつも美味しい。
「美味しい」と言うと彼女はリビングのソファーで笑って返した。
あと一歩で完成だ。
我ながら木の葉の影が絶妙だな。そんなことを考えて原稿を眺めていたら、出入り口の方で騒々しい物音がした。
仲間の誰かが帰ってきた、そういう類の音とは違った。
訝りながらサナエと視線と交わす。