ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
手から取り落とし、大事な原稿の上に紅茶をぶちまけた。

道で偶然想い人に邂逅し、頬に朱を差す主人公の顔面に紅茶が浸み込み、インクが滲み出す。

とんだしくじりをしでかしてまったと思いつつ、それどころではないと同時に危惧もしていた。

赤い軍服を着た近衛兵が踏み込んできたのだ。

「いたぞ、あいつだ! 連行しろ!」

隊長らしき男が号令を掛ける。

咄嗟にカッターを手にするも、難なく手刀で叩き落された。

「ああっ」と言う間に兵士に両側から拘束され、部屋の外に引っ張り出される。

平和ボケしていてすっかりド忘れしていた。自分が死刑囚で、尚且つ逃亡犯だったことを。

あたしはその夜、ヘリで聖都という場所に連行された。
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