ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「こちらへ」
少し丁重な感じで誘導される。豪奢な門を潜り、曲がりくねった螺旋階段を上がり、息が切れた頃に広い部屋に出た。
壁は一面に天使の絵が描かれていた。
ぜんまいではなくきちんと羽の生えた天使だったことに、逆にちぐはぐさを感じた。
あたしはすっかりぜんまい慣れしているらしい。
奥から青いロングジャケットを纏った初老の男が登場した。
肩と胸に幾つもの勲章が輝いていることから、この世界の要人だと知れる。
「ご無礼をお許し下さい」と彼は開口一番に謝罪した。
兵士が歩み寄り、手錠の鍵を外していく。拘束を解かれた意味が吸収出来ず、あたしは瞬きする。
「私は宰相のグレンヴィル・キーツと申します。この度はご登城戴き、厚く御礼を申し上げます。早速ではございますが、貴女のお名前は何と?」
慇懃に胸に手を当て、グレンヴィルはあたしを値踏みするように見た。
眼窩に填めた片眼鏡の奥から老獪な目が光る。
「……黒谷麻奈です」
あたしはあたしで胡乱な目で会釈する。
「黒谷麻奈、様」
噛み締めるようにあたしの名を反復する。
「では黒谷様、どうぞこちらへ」
少し丁重な感じで誘導される。豪奢な門を潜り、曲がりくねった螺旋階段を上がり、息が切れた頃に広い部屋に出た。
壁は一面に天使の絵が描かれていた。
ぜんまいではなくきちんと羽の生えた天使だったことに、逆にちぐはぐさを感じた。
あたしはすっかりぜんまい慣れしているらしい。
奥から青いロングジャケットを纏った初老の男が登場した。
肩と胸に幾つもの勲章が輝いていることから、この世界の要人だと知れる。
「ご無礼をお許し下さい」と彼は開口一番に謝罪した。
兵士が歩み寄り、手錠の鍵を外していく。拘束を解かれた意味が吸収出来ず、あたしは瞬きする。
「私は宰相のグレンヴィル・キーツと申します。この度はご登城戴き、厚く御礼を申し上げます。早速ではございますが、貴女のお名前は何と?」
慇懃に胸に手を当て、グレンヴィルはあたしを値踏みするように見た。
眼窩に填めた片眼鏡の奥から老獪な目が光る。
「……黒谷麻奈です」
あたしはあたしで胡乱な目で会釈する。
「黒谷麻奈、様」
噛み締めるようにあたしの名を反復する。
「では黒谷様、どうぞこちらへ」