ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「参りましょう」

棒立ちになっていたあたしは仕方なく彼の後に従った。
帰してもらえないらしい。

広間を出て、あたしは一驚を喫した。

創手がもう遅いといった言葉は嘘ではなかった。ここに来てからそんなに時間は経っていないと思っていたのに、既に夜空が白んでいる。

ここは湖の上に建てられた城のようだった。

黎明の移ろい易い紫空の下に、青い水面と森が広がり、遥か彼方には街並みが霞んでいる。

そんな佳景に見惚れる隙を与えず、グレンヴィルはあたしを別の部屋に通した。

客間らしいそこは、金色とピンク色で統一された、可愛らしい個室だった。豪華な天蓋付のお姫様ベッドが一際目を引く。

「今日からこちらをお使い下さい」

「今日から?」

「何かございましたらその者にお言い付けを。では私はこれにて」

あたしの質問には更々答える気がないようだ。

グレンヴィルは部屋にあたしと侍女の女の子を置いて立ち去った。

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