ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
それは漕手が長いオールで船を推進する、白いゴンドラだった。

船首と船尾が反り上がり、その船体には緻密な模様が彫られている。

湖面に舳先のランプの炎が浮かび、幻想的な月の周りで、銀色の雲が浮き出して見えた。

オールが軋む音と流れる水音が、いやが上にも脳内のアルファ波を誘ざなう。

あたしは創手の真ん前で、絶え間なく、油断無く彼を見張っていた。

不躾であることは先刻承知の上で。だって彼は呪いの使い手だ。

「君は何歳?」

創手は白魚みたいな手を暗い湖水に差し入れた。

あたしの眼力など物ともしていない。

「18歳です」

「そう、若いね」

自分の方がもっと若そうなのに、彼はそう言った。

船のヘリに顎を乗せ、彼は水面が光を押し流していく様を物憂げに眺めている。

長い睫毛が瞬きの度に揺れた。

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