その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
自分の話をひと通り終えたところで、彼のアイスコーヒーが少しも減っていないことに気付いた私は小さく首を傾げた。
「飲まないの?」
「あぁ、うん。飲むよ」
私の指摘を受けて、彼がハッとしたようにアイスコーヒーのグラスをつかむ。
その指先に強く力が込められているのがわかって、私はようやくデートに誘われたときに感じた嫌な予感のことを思い出した。
視線をあげると、唇を引きむすんで複雑そうな表情を浮かべる彼と目が合った。
「今日は話したいことがあるんだ……」
しばらくの沈黙の後、彼が重たげに唇を開く。
視線を合わせたまま頷くと、彼が少し迷ったように視線を揺らしてからまた口を開いた。
「来月付で本社への異動が決まった」
「そうなんだ……」
1年半ほど前に彼と付き合い始めたとき、立場上急な転勤をすることもあるという話は聞いていた。