その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「碓氷さん、ロックかけてないんですか?無用心ですね」

「ちょっと、何するの?」

広沢くんがそうつぶやいて勝手に人のスマホを操作し始めたから、慌てて手を伸ばす。

だけど、不調でベッドに腰掛けている私の手はあっさりと避けられた。


「会社にかけるんで、体調不良で休むって言ってください。たぶん、川口企画部長はもう出勤してると思うんで」

「え?」

広沢くんが私にスマホの画面を見せてくる。

それは既に会社の電話番号にかけられていた。


「ちょっと、今すぐ切って!」

「ダメですよ」

慌てて伸ばした腕が、またすっと避けられる。


「ちゃんと自分で話してください。俺が話してあげてもいいですけど、碓氷さんちで一晩一緒に過ごしたことが社内に知れたらまずいでしょ?」


一晩一緒に過ごした……なんて。

勝手にやってきて、勝手にソファーで寝てたくせに、誤解を招くような言い方をしないでほしい。


「勝手なことを……」

本気で少し苛立ちながらスマホを取り返そうとしたとき、電話が繋がって向こうから企画部長の声がした。


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