その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「どうぞ、碓氷さん」
広沢くんが口パクでそう言うと、ニヤリと笑いながらスマホを私の手に戻す。
「あ、の……おはようございます。碓氷です……」
「碓氷か。朝からどうした?」
仕方なくスマホを耳にあてて話し出すと、川口企画部長の怪訝そうな声が聞こえてきた。
体調不良で休みたい旨を伝えてみると、企画部長の声が若干不機嫌になるのがわかった。
私が休むと、部下たちの資料チェックなど普段私がこなしている急ぎの仕事が彼のほうに回る。
それが嫌なんだろう。
やっぱり多少体調が悪くても行ったほうがいいのかも……
欠勤希望を訂正しようと口を開こうとしたら、私の動向を目の前で伺っていた広沢くんに怖い顔で睨まれた。
その表情に一瞬怯んでいると、企画部長がため息を吐きながら私に言った。
「わかった。今日はしっかり休んで早く体調を治すように。もし碓氷にしかわからないことがあれば、電話かメールで社員の誰が連絡することもあるかもしれないが、少しくらいなら対応できそうか?」
「パソコンは持ち帰ってるので、大丈夫です。もし何かあったときはいつでも連絡してください」