その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


追い出すように背中を押すと、広沢くんに手をつかまれた。


「そうじゃなくて、いってらっしゃいのちゅーとかしてくれたほうが可愛いですよ?」

揶揄うようにそう言って、広沢くんが私の顔を覗き込む。

その距離がやけに近くて、つかまれた手が熱くなって汗ばんだ。


「ふざけてないで、早く行きなさい」

顔を背けた私を、広沢くんが不服そうにじっと見てくる。


「わかりましたよ。碓氷さんはちゃんと寝ててくださいね」

「わかってるわよ!」

何度もしつこく念を押してくる広沢くんに、視線だけをちらりと向ける。

視線がぶつかると、広沢くんがとても優しい目をして私に微笑みかけてきた。


「じゃぁ、いってきます」

そう言って、広沢くんが家から出て行く。

私に向けられた彼の表情に大きく胸が揺さぶられたような気がした。

それはたぶん、熱のせいだ。




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