その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




広沢くんが出かけて行ってから布団の中でうつらうつらしていると、枕元でスマホが鳴った。

ぼんやりしながらスマホをつかんでみると、かかってきているのは会社の番号だった。

何か困ったことがあればいつでも連絡してもらっていい、と川口企画部長に話したから、誰かが困ってかけてきたらしい。

体調不良が声に出ないようにベッドに体を起こして座ると、一度深く息を吐いてから電話に出た。


「はい。碓氷です」

「あ、よかった。秦野です」

着信を通話に切り替えた瞬間、秦野さんが吐く安堵のため息が聞こえてきた。


「秦野さん?」

「はい。これから碓氷さんに同行してもらう予定だった取引先伺うんですけど、その前にいくつか確認しておきたくて……」

「何?」

「えーっと、まずは……」

手元の資料を見ているのか、秦野さんが昨日私が修正を加えた部分についていくつか質問を投げかけてくる。

その質問内容のほとんどが、私の記憶では既に秦野さんと打ち合わせて解決済みだと思っていたのだけれど。

どうやらそうではなかったらしい。


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