その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「それは前にも話したと思うけど……」
もう一度丁寧に秦野さんの質問に答え直していたら、予想以上に時間がかかってなんだか頭痛がしてきた。
私が一緒に同行する予定だったから、何もしなくても大丈夫だと思って事前準備をしていなかったんだろう。
秦野さんと話していると、纏まりそうだった契約もなしになるような気がして、ものすごく心配になってきた。
アポイントの日取りを変えてもらって、私が改めて一緒に同行したほうがいいだろうか。
「秦野さん、やっぱり……」
「あ、ちょっと待ってくださいね。碓氷さん。何?広沢くん……」
アポイントの取り直しを提案しようとしたら、秦野さんが私の話を遮った。
今さっき、広沢……と聞こえたような気がしたけれど。
訝しく思いながらしばらく待っていると、秦野さんがまた話し始めた。
「碓氷さん、お待たせしてすみません。やっぱり、なんとかなりそうです」
さっきまでとと打って変わって、秦野さんの声が明るい。