その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「なんとかって?」
「はい、大丈夫です。広沢くんに少し手伝ってもらえそうなので」
なるほど。それを聞いて、秦野さんの声色が変わったわけを理解した。
だけど広沢くんは訪問予定の取引先相手とは面識もないし、前回の打ち合わせ内容だって把握してない。
強いて言えば、昨日資料印刷を手伝ってくれた程度だ。
それなのに、秦野さんをどう手伝うというんだろう。
「手伝うって、どんな……」
「じゃぁ、電話切りますね。碓氷さん、早く体調治してください。無事に終わったら、明日にでもまた報告します。では、失礼します」
いろいろ聞きたいことがあったのに、秦野さんは私にそれ以上話を続けさせてくれなかった。
「あ、ちょっと!もしもし?」
慌てて呼びかけたけれど、通話は切れていて秦野さんからの応答はない。
私にいろいろ聞いておいて、広沢くんのヘルプが得られそうになった途端あっさり電話を切るなんて……
ただ、呆れるしかない。