その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



だいたい広沢くんだって、抱えている自分の仕事があるはずだ。

それなのに、新人でもない同期の秦野さんの仕事にもおせっかいを焼いて何を考えているんだろう。


「秦野だって新人じゃないんだから、ひとりで取引先にくらい行けます」なんて、私には偉そうに諭してきたくせに。

結局、彼女のことが心配なんじゃない。

そんなふうに思って少し苛立っている自分に気付く。

こんなことで苛立ってたら、治る風邪も治らない。

胸にモヤモヤがあるものの、ベッドに潜ってもう少し眠ることにした。


けれど、さっきまでのようにうつらうつらとはしてこない。

閉じた瞼の裏がチカチカと光って、眠れそうになかった。

仕方ないので、起き上がって読みかけの文庫本を開いてみたり、スマホでネット検索をしてみたり……といろいろ試みたけれど、何をやってもいまいち集中できない。


秦野さんはちゃんと予定通り取引先に向かっているのだろうか。

もしかして、広沢くんに同行してもらっているかもしれない。

他のことをしていても、頭のどこか片隅でそのことを気にしている自分がいた。



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