その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
すぐにそれがわかったから、彼の話に「そう」と頷く以外に何もできなかった。
「礼子は今の部署での仕事にやりがいを感じてるみたいだし、異動する気なんてないだろ。主任を務める君に、もし今異動されたら、君の部署だって困るだろうし」
私が動揺して泣き喚くとでも思っているのか、彼がゆっくりと諭すように語りかけてくる。
私はそんな彼の言葉を、冷めた気持ちで聞いていた。
「そうね、私が抜けたら当面は今の部署も困るかもしれない」
実際のところ、今の部署から私が抜けたって代わりはいる。
確かに少し重要なポストにはついているけれど、私ごときが抜けたぐらいで会社が回らなくなるわけないのだ。
だけど、私を「説得」しようとしている彼に反論をする気になれなかった。
「そうだよな。だから俺も礼子に、安易について来て欲しいとは言えないんだ」
私の言葉を聞いた彼の瞳に安堵の色が浮かぶ。
私はそれを、ただ無感動に見つめていた。