その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「ふざけてないですよ。俺、碓氷さんのこと本気です」

私を両足の間に閉じ込めたまま、広沢くんがボソリとささやく。


「昨日だって今だって、無理やりだけど家の中入れてもらえたことですげー期待してるし。ほんとはこのまま押し倒してキスしたいくらいだし。ていうか実際、碓氷さんなんて俺の力で簡単に押さえつけられちゃうんですけど……」

抱きしめられてて表情が見えないけれど、広沢くんの声音がいつも私に接するときの部下としての
それと明らかに違っていたから、ゾクリとした。

思わず小さく肩を震わせた私に気付いた広沢くんが、私に触れる両腕に力を込める。


「でも、碓氷さんが俺をまだ部下としてしか見てくれてないことはちゃんとわかってるんで。だから、ほんとは今すげーキスしたいけど我慢します」

抱きしめられた腕の力が強くなったことでつい体を強張らせてしまったけれど、次に広沢くんが口にした言葉で一気に緊張が解けた。


「広沢くん、何言って……」

「今、理性失って、碓氷さんの部下としての信頼までは失いたくないんで」

「広沢くん」


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