その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
今は乃々香のことをちゃんと見てあげないといけないのに。
日曜日の午後。私は自宅から1時間ほど離れた総合病院に来ていた。
姪の乃々香の母親で、私の妹でもある美弥子が入院しているからだ。
妹の美弥子は今第二子を妊娠中なのだけれど、2週間ほど前の健診で絶対安静を言い渡されて病院にいる。
私の家では、私が高校生のときに母を病気で亡くしている。
普段の乃々香の世話や入院のフォローは、妹の旦那さんや義実家が手伝ってくれているのだけれど、週末は私や父が病院に来て、なるべくサポートすることに決めていた。
今日も、病院で乃々香の遊び相手をするためにやってきたのだけど。
買い物にやってきた売店でついぼんやりとしてしまった原因は、さっき病院の入り口のそばで出会うはずのない人を見かけてしまったことにある。
いや、でも。
あれは見間違いに決まっている。
「礼ちゃんは何にする?」
またぼんやりしそうになっていると、自分とパパの分を選び終えた乃々香が嬉しそうに振り返った。
「じゃぁ、私は紅茶にしようかな」
私も自分の飲み物を選ぶと、レジに持って行って纏めてお会計をした。