その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「大丈夫。私はあなたの将来の邪魔をするつもりなんてないから。本社に行ったら今より上のポストが用意されてて、副社長のお嬢さんとのお見合いの話も出てる。つまり私は……?」
上目遣いにじっと見つめると、彼が急に気まずげに私から視線をそらした。
「礼子が悪いわけじゃないし、君を嫌いになったわけでもないんだ」
「うん」
「転勤先に礼子のことは連れていけない。このまま遠距離で付き合ったとしても、将来の約束はできないと思う。だから……」
目を伏せた彼が言葉を詰まらせる。
その様子を見ていたら、少しは私のために葛藤してくれたのかもしれないと思えたから、次に彼の口から出てくる言葉を静かに受け止めようと心に決めた。
「だから、別れてほしい」
彼が、喉の奥から絞り出したような低い声で私に告げる。
私に拒否権なんてなかった。
「わかった」
小さく頷くと、彼がほっとしたように頬を緩めた。