その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
ふたりから少し遅れて私が会議室を出ようとすると、のんびりと資料の片付けをしていた広沢くんが追いかけてきた。
「碓氷さん、みんなから厳しいと思われてるみたいですけど、実は結構甘いですよね」
隣に並んだ彼が、クスッと笑いながら私に話しかけてくる。
「何の話?」
「いや。秋元の分担減らして、自分の負担を増やしたじゃないですか」
「別に負担だなんて思ってないけど」
「そうですか?もし大変そうだったら俺も手伝うんでいつでも言ってください。まぁ、碓氷さんから頼ってくることはないだろうけど」
眉間を寄せる私を見ながら、広沢くんが苦笑いした。
「あ。それより、このパンフレットのイベントって再来週の土曜日ですよね?その日って……」
乃々香の小学校の運動会がある日だ。
広沢くんの言いたいことに気付いて、私は小さく首を横に振った。
「そうね。でも、イベントの前日までには確実に仕上がっているはずだし。企画部長にイベントへの参加まで強制されてるわけではないから、問題ないわ」