その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
そんなことありえないのに、彼が戻ってきてくれたのかと思って期待した。
だけど、パッと顔を上げた瞬間に視界に飛び込んできた男の姿に、私の顔から笑みが剥がれ落ちる。
「そんなあからさまにガッカリした顔しないでくださいよ」
テーブルに載せた片肘で頬杖をつきながら苦笑いする。その男は、広沢 律だった。
「どうして広沢くんがここに?」
驚いてはいたけれど、部下の前で取り乱したところは見せられない。
平静を装って訊ねると、広沢くんが戯けたように首を傾げた。
「それはこっちのセリフです。たまたま立ち寄ったカフェで、デート中の直属の上司と支店長に出くわすなんて」
「………」
彼の言葉に、返す言葉を失う。
何を見られて、何を聞かれたのだろう。
無言になった私に、広沢くんがそっと笑いかけてきた。