その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
◇
「じゃあ、私はこっちなんで」
「あ、俺もです。お疲れ様でした。明日、よろしくお願いします」
「遅くまでありがとう。お疲れ様でした」
パンフレットが完成したあと、みんなで会社を出て駅まで歩いた。
行き先が違う菅野さんと秋元くんとは改札で別れたけれど、私と広沢くんが乗るのは同じ方面に向かう電車なので、途中まで一緒だった。
終電の時間が近いせいか、車内の乗客の数は少ない。
座席もガラガラだったから、私と広沢くんはなんとなく人ひとり入れるくらいの間隔を空けて並んで座った。
遅くまで仕事をしていて疲れたのもあって、お互いに無言になる。
「今日、秋元に言われてドキッとしましたね」
カタコトという電車の振動に少し眠くなり始めていたとき、広沢くんが唐突に話しかけてきた。
「え……、何?」
広沢くんが横にいるのに、つい気を抜いてしまっていた。
ぼんやりして反応が遅れた私を見て、広沢くんが笑う。
「碓氷さん、寝てました?」
「起きてたけど」
「眠かったら寝てもいいですよ。碓氷さんが降りる駅に着いたら起こしてあげますから。なんなら肩も貸しますよ?」
冗談交じりに笑って、広沢くんが私と隣り合っているほうの肩を叩く。