その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「次の停車駅はー………」

呆れ顔で広沢くんを見つめ返したとき、車内にアナウンスが流れた。

私が降りるのは次の駅だ。

すぐに降りられるように、横に置いていたカバンを膝の上に抱え直す。


「そうだ、碓氷さん。明日って、何時頃会社に行くんですか?」

電車がゆっくりと速度を緩め始めたとき、広沢くんが不意に真面目な顔付きで訊ねてきた。


「8時には行くと思う。ちゃんとイベントには間に合うように届けるから、安心して」

みんなで仕上げたパンフレットは、明日のイベント開始時間までに私が会場に届けることになっている。

一度出社して、そこからタクシーで会場まで行こうと思っている。

イベント開始は10時だけど、もし渋滞があったとしても、9時半までには到着できる計算にしてあった。


「乃々香ちゃんの運動会は?」

「開会式は9時半から。でも、一番見て欲しいって言ってたかけっこは午後の部の1番だから。それには余裕で間に合うはずよ」

「そうですか」


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