その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
そういえば昨日の別れ際に出社時間を聞かれたのって……
「碓氷さん、鍵は?」
広沢くんに催促されてはっとする。
「今開ける。それより、どうして広沢くんが来ているの?パンフレットは私が届けるって話したでしょう?」
「そうですけど。碓氷さん、タクシーで運ぶつもりだったんですよね?ひとりで段ボール箱3つもどうやって下に運んで、積み込むつもりだったんですか?」
広沢くんに問われて黙り込む。
そこまで深くは考えてはいなかったけど、部署の台車を使って運べば何とかなると思っていた。
「碓氷さんひとりじゃ絶対大変ですよ。地下の駐車場に車停めてるんで、それに積んでさっさと届けちゃいましょ」
そう言って笑いながら、広沢くんが解錠した部署のドアを押し開ける。
「昨日の夜の時点で話しても良かったんですけど。みんなの前で俺が運ぶの手伝うって言ったら、菅野さんや秋元も『手伝う』って言うでしょ?そうなったら、できるだけ休日に部下に負担かけたくないと思って一人で届けに行くことを部長に宣言した碓氷さんの本意にそぐわないじゃないですか」
企画部長に提案をしたときの自分の気持ちをせいか言い当てられてドキリとした。