その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
手のひらで額を覆うようにして、広沢くんがひたすらに笑う。
振られたくせに強がってるとでも思われたのかもしれない。
普段仕事のことでしか言葉を交わさない部下に、バカにするように笑われてあまりいい気はしなかった。
無言で眉を顰めていると、それに気付いた広沢くんがようやく笑うのをやめた。
「あ、すみません。悪気はないんです」
「じゃぁ、何なの?」
「いえ。碓氷さんて、彼氏と別れるときも職場と同じ顔してるんだなぁと思って」
「どういう意味?」
眉間にシワを寄せた私に、広沢くんが少し困ったような表情をしてみせた。
「別れ話されてるのに少しも動じてないというか……眉ひとつ動かさず、自分の感情を晒すことなく北原支店長と話してましたよね」
「そう?」
内心結構動揺していたのだけど、他人からそんなふうに見えていたならよかった。
彼に変な気負いを感じさせずに済んだということなんだろう。