その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「碓氷さんって呼ぶより、デートっぽいじゃないですか。俺は今日一日、れーこさんって呼ぶつもりなので、れーこさんも俺のこと名前で呼んでいいですよ」

「呼ぶわけないでしょ」

即答したら、広沢くんはますます愉しそうに笑っていた。


「そんなことより。れーこさん、行きたいとこあります?」

馴れ馴れしい呼び方を改めない広沢くんを無言で睨んでみたけれど、彼は全く動じなかった。


「もし行きたいところがなければ、ここの植物園とかどうですか?」

広沢くんがナビで検索して見せてくれたのは、ガーデンが綺麗で高台からの景色も良いことで人気のある植物園だった。


「いいけど。広沢くん、花好きなの?」

広沢くんが選んだ場所が意外で、パチリとひとつ瞬きをする。

広沢くんくらいの年の子たちがどんなところにデートに行くのか私はよくわからないけれど。

映画館とか買い物とか。もしくは、車で迎えに来てくれるというし「海にでも行こう!」とか言い出すのかと思っていた。


「好きっていうか。うす……、れーこさんはデートでそういうとこ行くんじゃないかな、って」

私の質問に動揺でもしたのか、呼び方を間違えて噛んでいる広沢くんに思わず笑ってしまった。



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