その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「全然笑うとこじゃないんですけど」

広沢くんが私からふいっと顔をそらす。

その仕草がちょっと可愛いと思った。


「ごめんなさい。私はそういうところに出かけるの、割と好きよ。そこの植物園、ちょうど今の季節はバラが綺麗みたいね。この前テレビで紹介されてた」

笑うのをやめてそう言うと、広沢くんが私を振り向いてぱっと目を輝かせた。

その表情とさっきまでとの落差が激しくて、なんだか単純だなとまた笑いそうになった。


「俺も、たぶん同じ番組見ました。昨日の夜、れーこさんとどこ行こうって考えたときに、ぱっと浮かんだ場所がそこで。一緒に行きたいな、って」

けれど広沢くんがナビの設定をしながら嬉しそうに話すのを聞いていたら、込み上げそうになっていた笑いの波がすっと引いていった。

今日の外出は「昨日のお礼」

そのつもりで助手席に乗り込んでいるのに、私のことを考えて行き先を決めてくれたことや、本気で私と出かけるのを楽しみにしてくれているように見える広沢くんの表情に気持ちが揺れた。



「れーこさん?」

ナビの設定を終えた広沢くんが、ぼんやりとしている私を見て首を傾げる。


「出発していいですか?」

「大丈夫よ」


そう答えて、真っ直ぐ座り直す。

フロントガラスの向こうをじっと見ていると、広沢くんの視線を横顔に感じた。

表情は確かめられなかったけれど、チリチリと刺すようなその視線が私の頬を熱くしていた。



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