その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


お酒は広沢くんが飲めないから、炭酸水で乾杯をすることにして。

あまり高いコースをご馳走すると気を遣われるだろうから……

3種類から選べる前菜と、お肉か魚を選べるメイン料理、最後にデザートとコーヒーがついてくる、私がここを訪れるときに選ぶ比較的お手頃なコースメニューをお願いすることにした。


「ここ、よく来るんですか?」

オーダーを受けてくれた私たちのテーブルスタッフが離れて行くのを見計らうように、広沢くんがこっそりと訊ねてくる。


「たまにね。特別なときに、よく使わせてもらってる」

前回利用したときのことを思い出しながら答えると、広沢くんがほんの少し目を伏せた。


「それって、彼氏とですか?」

伏し目がちにあたりを見渡した広沢くんが、明らかにトーンの下がった声で訊ねてくるから、私もつい彼の視線の動きに合わせて周りを見てしまった。

私たちが座るテーブルの周りには、デートらしきカップルの比率が高い。


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