その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
上司の憂鬱
I
「来週木曜の午後と金曜に有給?」
私の手から申請書を受け取った企画部長が、そこに書かれている内容を声に出して確認する。
本人には悪気はないのかもしれないけれど、その言い方が私が有給申請を出すことを咎めているような気がした。
「申し訳ありません。急なこととは十分承知しています。今妹が臨月で入院しているんですが、計画出産の予定でして。家庭の事情で、私が姪の世話など手伝う必要があるので……」
私は今年はまだほとんど有給を取っていないし、その取得だって会社が与えてくれている権利なのだけど。
企画部長の態度に、言い訳するみたいに細かい事情を告げた。
「へぇ。妹さんが」
手にしていた有給申請書から視線を上げた企画部長が、私の顔を見て珍しくにこやかになる。
「それはおめでとう。だが、入院してるなんて、大変だったな。君がついていてあげたほうが妹さんも安心だろう。もし予定が早まったり何かあれば、日程の変更も可能だから」
「あの、ありがとうございます……」