その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
普段は私にきつい対応をすることも多い企画部長の言葉が意外だった。
「妹さんのお子さんは、男の子?女の子?」
それどころか、企画部長にしては珍しく、機嫌よく私との会話を続けてくる。
「1人目が女の子で、今回は男の子みたいです」
「おー、2人目なのか。うちの子どもも男女の兄妹なんだけど……」
妹の子どもの性別を聞いてきたのを皮切りに、企画部長が自分の子どものことを語り始める。
ついでに奥さんの出産のときの話までも語り始めて……
愛想笑いを浮かべながら、最後まで話を聞いた。
企画部長の奥さんは、仕事をしながら産休育休を取っての出産だったらしく、そのためか出産・育児に関する女性への理解は割とあるらしい。
けれど……
「まぁ、碓氷はまだ先の話になりそうだな」
と、自分の話を散々聞かせた後に余計な一言を投げ込んできて。
やっぱり企画部長は企画部長だ、と苦々しく思いながらデスクに戻った。