その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「少し待ってもらっていい?一度整理して考えるから……」
不安そうに見上げてくる秦野さんにそう言うと、一度冷静になるために自分のデスクに戻った。
「あれ?碓氷。まだいたのか?」
ノートパソコンを見つめながら考えていると、会議から戻ってきた企画部長が驚いた顔で話しかけてきた。
「帰らなくて大丈夫なのか?妹さんの病院に向かわないといけないんだろ?」
その声が大きくて、部署内の同僚たちの視線が部長と私に集まった。
「いえ、あの……少しトラブルがあって……」
大きな声を出す企画部長とは反対に、小声で事の経緯を報告する。
「それは、納期を急がない他の依頼とチェンジできないのか?」
「え?」
企画部長の提案にハッとしたとき、広沢くんが近づいてきた。
「部長、碓氷さん。お話し中、すみません。秦野の取引先のパンフレットのことで……」
広沢くんの話が今まさに企画部長に相談していたトラブルのことだったので、私たちの視線が同時に彼へと注がれた。