その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「ちょうど、秦野が依頼した印刷会社と同じところに、僕が木曜日の午後までに印刷をお願いしている広告があるんです。今電話をしてみたら、まだ印刷に取りかかっていなかったので、秦野の依頼とチェンジしてもらえそうです」
「そうなの?」
企画部長が私に提案しかけたことを、広沢くんが既にやってのけていて驚いた。
自分の仕事をしながら、秦野さんのトラブル報告やその経過をちゃんと見ていたなんて。
「広沢くんの納品日はそれで大丈夫なのか?」
「はい。だいぶ余裕を持って依頼を出していたので、週明けに届けば問題ないです」
「そうか」
「秦野さんには……?」
「既に報告済みです。企画部長と碓氷さんからの許可が下りれば、僕から印刷会社に正式に依頼の電話をして、秦野には取引先に事情説明と謝罪の電話をしてもらおうと思ってます」
「そう……」
ちらっと秦野さんに視線を向けると、うつむいて目元を擦っているのが見えた。
その姿に、少し不安になる。
「秦野さん、謝罪の電話はちゃんと……」
「大丈夫ですよ。秦野も新人じゃないんで」
けれど、広沢くんは私の不安をばっさりと一息に切り捨てた。