その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
このまま電話を切るにしても、何か話さないと。
スマホを耳に当てながら懸命に考えて、結局思い付いた話題は仕事のことだった。
「そういえば、秦野さんはあのあと大丈夫だった?」
「碓氷さん、こんなときも仕事の心配してたんですか?」
私が切り出した話題に、広沢くんが呆れたようにため息を吐く。
「大丈夫ですよ。印刷会社にも秦野の取引先にも話しがついて、ちゃんと問題解決できてますから」
「どうもありがとう」
「今回の件は碓氷さんにお礼を言われることではないですよ。碓氷さんは相談を持ちかけられただけで、トラブってたのは秦野なんだから」
「それもそうね」
また広沢くんに助けられた。
そんなふうに思っていたけれど、彼が今回助けたのは私ではなくて秦野さんだ。
「企画部長も言っていたけど、今回はよく機転が利いたわね。秦野さんが私にトラブルの相談をしていることはみんな気付いてたとは思うけど、それぞれ業務が忙しくてトラブルの内容まで把握してる人はいなかったと思う。広沢くん、秦野さんのことをよく見てたのね」
そうでないと、あんなふうに的確な解決策を見出すことはできなかったと思う。