その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
広沢くんと秦野さんは、同期同士だし、何度かふたりでチームになってもらって仕事を任せたこともある。
これまでも広沢くんが秦野さんのことをフォローしていたことがよくあった。
同期の中でも、ふたりの関係性は特に良好なんだと思う。
「今回の件で、秦野さんの広沢くんの好感度がさらに上がったでしょうね」
私は冗談交じりにそう言って笑った。
以前、オフィスのトイレで秦野さんが広沢くんに好意があるという話を偶然聞いてしまったことがある。
好意を持っている相手がトラブルから救ってくれたら、その人への期待は一層高まるだろう。
そう思いながら、少し複雑な気持ちになっている自分がいた。
「俺は別に、秦野の好感度あげるために動いたわけじゃないですから」
私が言ったことが何か気に障ったのか、広沢くんの声のトーンが下がったような気がした。
「企画部長もよく機転を利かせてくれた、なんて褒めてくれたけど……俺が動いたのは私欲のためなので」
「私欲って?」
広沢くんがなぜそんなことを言い出すのかよくわからなかった。
トラブルが解決して助かったのは秦野さんで、広沢くんは何か特別な利益を得たわけではない。