その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「俺が動こうと思ったのは、秦野のためでも会社のためでもなくて碓氷さんのためです」
広沢くんの言葉に、思わず息を飲む。
「秦野のトラブルの相談を受けてたのが碓氷さんじゃなかったら、たぶん静観してました。自分の仕事だって詰まってるのに、無条件に他のやつを助けられるほど俺だって人間できてませんから」
「な、何言ってるの……」
返す言葉を詰まらせていると、スマホに押し当てた耳に広沢くんがクスリと笑う声が届いた。
「碓氷さん、困ってます?」
その声を聞いただけで、ニヤリといたずらっぽく微笑む彼の顔が鮮明に思い浮かぶ。
不意に胸が小さく騒ぎ始めるのを感じて、スマホを握り直しながら気持ちを整えた。
「そんなわけないでしょ」
電話越しに広沢くんに伝わる声が揺れないように、できるだけ感情を押さえて言葉を発する。
スマホを握る手は少し汗ばんでいたし、変わらず胸はざわついていたけれど、私の表情が見えない広沢くんにはいつもと変わらない冷静な声が届いたと思う。
「そうですよね」
その証拠に、広沢くんからはがっかりするようなため息が返ってきた。