その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「碓氷さん、明日も有給取ってます?」
「明日と明後日は申請を出してる」
「そうですか。じゃぁ、会えるのは週明けですね」
ため息交じりに広沢くんがつぶやいた言葉が、私を少し動揺させた。
普通に仕事で顔を合わせるだけなのに、それがまるですれ違いで会うことができていない恋人に話すような物言いだったから。
わけもなく、胸がざわついてしまう。
「碓氷さん、無視しないで何か言ってくださいよ」
小さな動揺で言葉を返さずにいたのを、広沢くんは私が呆れて黙り込んだと勘違いしたらしい。
焦ったように、フォローの言葉を次々投げかけてくる。
それを聞きながら、私は彼に動揺を悟られなかったことにほっとしていた。
だって……
「次に会えるのは……」
8つも年下の部下にそんなふうに淋しそうな声でつぶやかれて、その言葉を少し、ほんの少しでも嬉しいと思ってしまったなんて。
そんなこと、悟られていいわけがない。