その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
部下の焦燥
I
有給明けのひさしぶりの出勤日の朝。
いつもと同じ時間帯に出勤した私は、自分のデスクに座ってまだ誰もいない社内を見回した。
数日ぶりだけれど、変わらない光景に少しほっとしてノートパソコンを開く。
始業時間よりかなり余裕を持って出勤しているのは企画部では私くらいで、社員の多くは業務開始15分前頃やってくる。
休み中に溜まったメールチェックがひと通り終わると、小さく伸びをして席を立った。
まだ誰も来ないうちに、部署の端に設置してある給湯室でコーヒーを淹れる。
湯気の立つマグカップを持ってデスクに戻っていると、部署のドアが開いて企画部長の大きな声が響き渡ってきた。
振り向くと、企画部長と北原さんが話しながら歩いてくる。
ひさしぶりに見る北原さんの姿に一瞬動揺したけれど、今日から彼が支店視察に来る予定だったことを思い出すとすぐに平常心を取り戻すことができた。
「おはようございます」
挨拶をすると、私に気が付いた企画部長も挨拶を返してきた。
北原さんが来ているからか、いつも私の顔を見るとしかめ面を浮かべる企画部長が朝から機嫌が良さそうだった。
「碓氷、北原さんにコーヒーを頼む」
「あぁ、はい」
部署の奥にある小さなミーティングルームのドアを開けた企画部長がそこに北原さんを案内しながら振り返る。