その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
ついでに企画部長の分も淹れて、ミルクを用意していると、不意に背後に気配を感じた。
「おはようございます、碓氷さん」
振り向くと同時にそばから聞こえてきた声に思わずドキリとする。
マグカップを持ってそばに立っていたのは、広沢くんだった。
「お、おはよう」
広沢くんとは、美弥子の赤ちゃんが生まれた日の夜に電話で話したきりだ。
電話を切る間際で妙な空気になったけれど、彼はどう思ってるんだろう。
そう思ったら、挨拶を返す声が上擦った。
広沢くんと最初に言葉を交わすときのシチュエーションは、お昼前後に私のデスクを挟んで。
話の内容は業務上の相談。
そう決めてかかっていたから、夜中に電話してしまったこともそのときの妙な空気も全て、上司として向き合うことで帳消しにするつもりでいた。
それなのに、業務開始前にこんなところで話しかけてくるなんて不意打ちすぎる。
「それ、自分用じゃないですよね?」
なるべく余計なことは話さないようにコーヒーを運ぶ準備を黙々と進めていると、広沢くんが不思議そうに訊ねてきた。