その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「あぁ、企画部長に北原さんのコーヒーをミーティングルームまで運ぶように頼まれたの」
「へぇ、そうですか」
私がそう答えた途端、広沢くんの声のトーンが微妙に下がる。
それに気付いて視線をあげると、彼が私の用意したふたつのコーヒーカップを無表情で眺めていた。
「北原さんはコーヒーは砂糖なしでミルク入れる派なんだ?」
広沢くんにボソリと低い声でつぶやく。
「その気遣い、勘のいい人だったら気付きますよ。碓氷さんと北原さんがただの上司と部下じゃないのかなって」
「何言ってるの?」
「だって碓氷さん、企画部長のほうにはカップに砂糖も添えてるじゃないですか。だけど、北原さんは砂糖は使わないって知ってるから添えてないんでしょ?」
広沢くんに指摘されて、自分の無意識の行動にハッとした。
「今からもうひとつにも砂糖を添えるところだったのよ」
慌てて棚からスティックの砂糖を取り出して添える。
けれど広沢くんは、そんな私の行動を無表情で見つめて言った。
「嘘つきですね、碓氷さん」