その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
突き刺してくるような、広沢くんの眼差しが痛かった。
「意味のわからないこと言わないで」
その視線から逃れるように顔を晒すと、彼がコーヒーカップをふたつのせたトレーに手を伸ばしてきた。
「これ、俺が運んできます」
怒ったようにそう言って、広沢くんが自分用の空のマグカップをコーヒーメーカーの横に乱暴に置く。
「何言ってるの?私が頼まれたんだから、私が運ぶわよ」
「俺が運びます」
「どうして?」
「どうかしたんですか?」
ふたりで揉めていたら、自分用のマグカップを持った秦野さんに声をかけられた。
不思議そうに私たちを交互に見る秦野さんを、広沢くんがじっと見つめる。
「広沢くん?」
「秦野。俺、碓氷さんに相談があるからこれをミーティングルームに運んでくれない?企画部長が北原さんと話してると思うから」
秦野さんが小首を傾げるのと、広沢くんが彼女ににっこりと笑いかけたのはほぼ同時だった。