その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「ちょっと、広沢くん……」
「悪い、秦野。碓氷さんが運ぶように頼まれたみたいなんだけど、俺の相談も急ぎなんだ」

秦野さんに仕事を押し付けようとする広沢くんを止めようとしたけれど、私の声は彼の笑顔のお願いに遮られた。


「わかった。ミーティングルームね」

広沢くんに笑いかけられた秦野さんは、彼からの要求をあっさりと受け入れてしまう。

コーヒーの載ったトレーを持つと、私の制止も聞かずにミーティングルームに歩いて行ってしまった。


「相談って何?嘘つきはどっちよ」

秦野さんに仕事を押し付けた広沢くんに怒りを含んだ声をぶつけると、彼の顔から秦野さんに向けていた笑顔が消えた。


「そんなに北原さんのところに行きたかったですか?」

「行きたいとかそういうことではなくて、仕事だから。公私混同するつもりはないわよ」

「してたじゃないですか、公私混同」


さっきのコーヒーの砂糖のことを言っているのか、広沢くんが不機嫌そうに反論してくる。


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