その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
II
「それではこれで、役職者会議を終わります。北原さんから最後に何かありますか」
現支店長が、顔を上げて北原さんに視線を向ける。
「そうだな……」
小さくつぶやいて椅子から立ち上がった北原さんが、円形テーブルを囲んで座る私たちの顔をゆっくり見回しながら今回の視察で気付いたことを話していた。
その話を、ミーティングの最後の資料が表示されたままになっているプロジェクタの画面を眺めながらぼんやりと聞く。
企画部長を含めた周りの役職者たちは、北原さんの話に時折頷いたり、手元の資料にペンを走らせている。
けれど今日の私は珍しく不調で、ミーティング中も今も、あまり周りの話が耳に入ってこなかった。
体調が悪いわけではない。
健康面は全く問題がないのに、オフィスに来てデスクに座ってパソコンに向き合っていても、頭が仕事モードにうまく切り替わらないのだ。
原因はなんとなくわかっているのだけど、それが原因だとは認めたくない。
だからうまく仕事に集中できない自分に苛立つのに、気がつくと私の頭は集中力を切らして別のことを考えてしまっていた。