その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「秦野の誘いならとっくに断ってますよ」
「え?」
外に出ようとすると、私の前に回った広沢くんがドアを塞いだ。
目を見開いて見上げると、広沢くんが口端を引き上げる。
「俺と秦野の話を聞いたあと、給湯室から出て行くれーこさんが泣いてるみたいだったから」
「何言ってるの?泣いてなんかいないけど」
秦野さんの誘いを断ったと知って内心ほっとしたのに、彼の次の言葉で私は眉を潜めた。
仲良さそうな広沢くんと秦野さんの会話を聞いて複雑な気持ちになったのは事実だし、仕事も疎かになってしまったけれど。
人に見られるように泣いたりなんて絶対しない。
「そうですか?でも、デスクに戻ったあとずっと浮かない顔してましたよね?」
「………」
なるべく顔に出さないように意識していたつもりだけど、それに関しては否定できない。
「パソコンに向かいながらずっと心ここにあらずみたいなれーこさんのこと見て、気付いたんですよね。これってもしかして、北原さんじゃなくて俺のほうが脈ありなんじゃないか、って」
無言になる私を見て、広沢くんが悪戯っぽく瞳を揺らす。