その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
上司と部下の終業後
コピー機の前に立っていると、ふと背後に人の気配を感じた。
近付いてきたその人は、後ろから肩に腕を回すと作業をする私の髪を弄ったり、頬や耳を突っついてきたりする。
「ねぇ、広沢くん。さっきから何してるの……?」
「セクハラです」
振り向きもせずに無表情で訊ねると、広沢くんが遠慮なく私に触りながら堂々とそう返してきた。
もうとっくに就業時間は過ぎていて、部署内に残っているのは私と広沢くんのふたりだけ。
彼のほうはもうとっくの前に仕事が終わっているはずなのに、残業中の私の邪魔ばかりしてくる。
「触らないで。誰かに見られたらどう言い訳するつもりなのよ」
「誰もいないんだから、大丈夫ですよ。れーこさん」
肩に回された手を払い除けようとするけれど、そんなことはお構いなしに広沢くんが私のほうに軽く体重をのせてくる。
「重い……それから、さっき言い忘れたけど社内でその呼び方はしないで」
「その呼び方って?」
「だからその……」
「れーこさん、っていうの?」