その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
そんなつもりはなかったし、午前中ぼんやりとして仕事に身が入らなかったツケが回ってきているだけなのだけど。
表情を曇らせる広沢くんを見て、自分の態度を少し反省した。
「ごめんなさい。本当に仕事が溜まってるの」
広沢くんから目を逸らすと、コピーの終わった資料を一纏めにしてデスクに戻る。
「あとで連絡するから、先に帰っておいて」
抱えていた資料をドサっとデスクに置いて、椅子に腰かける。
顔をあげると、広沢くんが置き去りにされた子犬みたいな目で悲しそうに私を見下ろしていた。
私の口調がキツかった……?
それとも、言い方を間違えた……?
「あぁ、違う。そういう意味じゃないの……」
いずれにしても、彼の表情を見れば誤解をされていることだけは明らかだ。
デスクに肘をついて額を抑えると、足元に置いたカバンを引きあげる。
カバンの中から手探りで取り出したあるものを無遠慮に差し出すと、途端に広沢くんの瞳がパッと明るく輝いた。