その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
今も、昨日届いたやり直し分の請求書を見せられながら企画部長の川口さんにくどくどと説教をくらったところ。
けれど、坂上さんが刷り直した広告に大満足してくれたみたいだから、私が怒られた甲斐はある。
部数が増えたことにも喜んでくれ、また次の機会があれば広沢くんに頼みたいと上機嫌だったそうだ。
デスクに戻るために会議室の廊下から続く角を曲がったとき、給湯室のそばの壁にもたれかかっている広沢くんの姿が見えた。
コーヒーでも淹れにきたのだろうか。
「お疲れさまです」
「お疲れさま」
目が合うと先に声をかけられた。
軽く会釈して行き過ぎようとすると、広沢くんが私の隣に並ぶ。
「どうかした?」
訊ねると、広沢くんが首を傾げるようにして私の顔を覗き込んできた。
「今呼ばれてたのって、俺のミスの件ですよね?碓氷さんだけ呼ばれてたけど、俺は行かなくてよかったんですか」